記るす者として

全国紙の記者のたまごの日常です。ちょっとした小話や時事問題への雑感も。

小話 001 親子丼

私は最近まで海外に行ったことが無かった。

海外に対して憧れは持っていなかったし、海外に行く必要性も感じていなかった。

憧れに関しては今も変わっていない。

しかし、ある経験をしてからは、後者の考えは変わった。

 

 

それは2年前、遠い海外の国でホームステイしていたときの話。

 

ステイ先は母と息子の2人暮らしだった。

母は聖母のような優しさを持った人。

息子はロックシンガー。皆が思い描くロックシンガーそのものという感じだ。

2人の性格はまるで対照的である。


「父親はどうしたのか」と聞くことは敢えてしなかったし、その質問を失礼なく聞ける自信は無かった。

何しろ私は英語が苦手なのだ。

 

 

初日。

空の旅を終え、現地の空港に着くと、母親が出迎えてくれた。

母親の車に乗り込み、そのまま街中を案内してもらった。

車中は質問タイムだ。お互いを質問攻めにした。

家族構成、大学生活、将来の夢。

拙い英語で話した。

もちろん日本の話もした。 

「好きな日本料理は何か?」と聞かれたので「oyakodon(親子丼)」と答えた。

実はそんなに好きなわけではないのだが、異国の地がダシの味を恋しくさせていたのかもしれない。

 

一通り街を案内してもらった後、家に戻った。

2階の部屋に案内してもらい、一息ついた。少し喋り疲れた。

日本でいるときとは違い、頭をフル回転させながら喋るのだ。

それはもう、疲れる。

 

「Hey guys! dinner is ready! 」

1階から聞こえる母の声で起こされた。

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

階段を降りると、美味しそうな夕食が並んでいた。

息子もいた。どこかのロックスターのTシャツを着ていた。日本では売っていないような派手なシャツだ。


食事中、先ほどの続きで、「親子丼」について詳しく話した。

「oyako(親子) is egg and chiken.」「don(丼) is rice.」

今思えば、書き起こすのも恥ずかしいくらい拙い英語だ。

画像を見せて、やっとどのような料理であるか伝わった。

 

次は「親子丼」という日本語の意味について話した。

「oyako(親子) means parent and child.」

しばらく間があってから、息子は大爆笑した。

理解するのに時間がかかったのだろう。「なんてクールな名前だ」と言っていた。

母は唖然としていたが、当然の反応だろう。

日本にいると気にならないが、その由来はなかなかむごいものがある。

文化の違いを痛感した。

 

 

それから2週間ほど経って、現地の暮らしにも慣れてきた。

この日も学校を終えて家に帰り、部屋で寛いだ。

「Hey guys! dinner is ready! 」

いつものように1階から母の声が聞こえてきた。

腹を空かしていた私は、急いで階段を駆け下りた。

 

芳ばしい香りがする。どこか、懐かしいような香り。

テーブルにあったのはなんと、「親子丼」だった。

私が好きだと言ったのを理由に、わざわざレシピを調べて作ってくれたのだ。

胸がいっぱいになった。

実はここだけの話、ダシを割らずに原液のまま使っていたため、味はかなり濃かった。

しかし、そんなことも気にならないくらい有り難かったし、親子丼も美味しく感じた。

すぐにお腹もいっぱいになった。

 

国境を超えても、思いやりの心は存在する。

文化は違っても、人の心は同じ。

それを学べた瞬間だった。

こんな経験は海外でしかできないだろう。

 

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「ブログの記念すべき最初の話が『親子丼』かよ」

こう思った人が多いだろう。

実はブログを作ったことに大した理由は無い。

この「親子丼」の話をどこかに載せたいなと思っただけだ。

そう、このブログは「親子丼」以外まっさらなのである。

そのため恐らく更新頻度はかなり低い。

しかしまあ一応、このようにフィクションやノンフィクションを小話として載せていきたいと思う。あと雑感もね。

暇がれば是非読んで下さい。よろしくお願いします。

最後に、気持ちの入り様から察した人もいると思うが、この話はもちろんノンフィクションである。私が実際に体験した話だ。